大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(オ)748号 判決

甲府市深町三一九番地

上告人

岩間力雄

同所

岩間徳太郎

右両名訴訟代理人弁護士

沖田誠

同市魚町八番地

被上告人

高橋ともじ

同所

高橋光子

同所

高橋美佐子

右法定代理人親権者母

高橋ともじ

右当事者間の土地家屋所有権確認請求事件について、東京高等裁判所が昭和二八年六月一七日言渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

"

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。(原判決が請求原因の追加は従前の請求とその基礎が同じであり特に著しい訴訟の遅延を来すことはないのであるから当審における請求原因の追加は許さるべきであると判示したのは相当である。)

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

昭和二八年(オ)第七四八号

上告人 岩間力雄

外一人

被上告人 高橋ともじ

外二人

上告代理人沖田誠の上告理由

第一点 原判決は第一審に於ては全々主張せず経過し第二審に於て突如新なる事実を主張し、しかもその主張は当初の訴の基礎事実と全く異つており明に訴の変更であり、著しく時期に遅れた事実を採用した違法がある。

即ち原告である被上告人等の請求原因は、本件不動産が被上告人等の共有であることの確認とこれが所有権移転登記手続の履行を求め、その理由として被上告人等の先代岩次が上告人両名から夫夫その所有に係る本件不動産を買ひ受けた。その買受けは訴外中川一を代理人として契約した。と主張し来つた事は昭和二十七年五月 日訴訟提起から第一審の終結した昭和二十七年十一月まで続いた。ところが第一審に於て右の事実か排斥せられ敗訴となるや昭和二十七年十二月二十三日の控訴状に於て予備的事実として、被上告人先代岩次が買つたでないとすれば上告人德太郞は本人兼上告人力雄の代理人として中川一に売つたものであり中川は岩次に売つたものである。そしてその売買に際つては中川と上告人等間に於て上告人等は中川から異つた岩次に中間登記を省略して直接所有権移転登記を為す特約を為したものであると為し原審第一回口頭弁論に於て陳述した。それで上告人は右は全く請求の基礎の変更であつて、仮りに変更てないとしても著しく時期に遅れ訴訟手続を遅延せしむるに付き却下すべきものであると主張した。然るに原審はこれが採否を有や無やにして進行し、この点に付き上告人に対し立証を促し、その準備の機会をも与へず欺し打的にこの予備的主張を採用したのは明に公明正大を生命とする裁判官のやり方と云ふことが出来ない。

訴の基礎の変更かどうかは本件の如き売買に基く確認である以上、先づ第一に売買の当事者、売買の目的物件、代金、代金受授の有無、契約の日時、場所等が争点であり、右の事実が訴の基礎であることが明である。然らば本件について観るに被上告人の当初からの主張は売主は上告人等各自であつて、各自が各々の所有不動産を岩次に売つた代金は両不動産を合せ金五万円代金は直接支払つたと云ひ、予備的主張では上告人德太郞は上告人力雄の代理人兼本人として二口の不動産を訴外中川一に代金六万円で売つて同人から代金を受取つた。中川は右二口の不動産を代金五万五千円で岩次に売つた。中川と上告人等には中川の売渡人に対し中間登記を省略し、直接所有権移転登記を為してやる特約があつたからその特約に基いて請求すると主張して居る。かくの如く第一の事実と第二の事実とを比較すれば全く天と地の差があり争の中心は何れも著しく相違して居り、その立証の範囲程度等について観るも買主は被上告人の先代か中川か。売主は上告人各自の二人か、德太郞一人か、德太郞は力雄の代理を兼ねたか。代理権限の有無。代金は幾何で、その受授の有無、中間登記省略特約の有無、その他附帯条件の有無等挙げるなれば遑かないのである。然らば斯る争点に付き双方に立証の機会を与へ充分立証を為さしむべきであるのに、既出証拠資料で判ると独断し訴の基礎の変更を軽々認容した原判決は不当も甚しきものと考へる。

第二点 原判決は上告人等に各々その所有権移転登記を為すべき義務を認めたが、その判決理由を検討するに、(一)上告人德太郞と中川との売買に際り中川からの買人岩次に対し中間登記を省略し、直接德太郞から転得者に移転登記を為す事を予め承認してあるからと為し、(二)又上告人德太郞は力雄をも代理して被上告人先代岩次に対して曰く、中川が中間登記を省略して異議かない旨の証明書さへあれば岩次に登記を為す旨承諾した。そして岩次は現にその証明書を所持して居るから云々と判定して居る。

前段の事実は中川からの買受人であつて特に岩次と定まつて居ない前の中川との売買が成立した際を指して居るのであるから、その予め承認の特約は德太郞と中川との両者の間の契約であるから、德太郞は中川に対してその特約履行の責任は格別として第三者でその後の買受人に対し直接その義務を負担するの理は解し兼ねるか、而し第三者である岩次はその権利を買人として取得したからその権利の行使としての登記義務を認容したのか。それとは別に上告人德太郞が本人兼力雄の代理人として前述の如く証明書を持つて呉れば同人に直接登記をしてやると約束したその約束に基いて上告人にその義務があるのだと認めたの全く不得要領で判然しない。前段とするなれば契約当事者間の権義関係が直接第三者に移転するの理を明にせなければならない。又後段の理由により本件当事者間の契約に基くものであつて、上告人に之が義務履行を命したものとすれば、此の点に付ては請求原因事実を被上告人は之が主張陳述を為して居ないから、訴へのない事実に基いて為した不当の判決と云はなければならない。

第三点 原審は概括的に関係当事者間に中間登記省略の合意があつたかのように被上告人の主張を認めたかのようにも解せられないことはないが、然らばその関係者とは何人を指すのか。又その合意は何時何処でなされたか全く不明である。先づ関係者の点について観るも德太郞と中川か、德太郞、力雄、中川か、德太郞と岩次か、德太郞、力雄、岩次か、德太郞は本人としてか力雄の代理としてか、判然しない。又その合意は前記四名の間に同時に為されたか、別々か、その契約か何時何処でなされたか全く不明である。人に対し義務の履行を命ずるに際しその義務の因つて生じた事実関係を究むることなく漠然として之を認めた。然らば之れに照合する証拠は何れの部分を挙げて指すのか全く出鱈目であると云ふ外ない。

第四点 原判決は諸種の証拠を綜合して之を認めたと判示して居るかさの諸点については何れの証拠を検討しても全く之を認めることが出来ないのみか却て反対の証拠であることが明である。即ち

(一) 被上告人等は先代岩次が上告人等から買つたのだと主張し請求原因となし、その証拠として甲第二号証の中川の証明書を提出して居り、第一審の証人高橋由吉、中川一その他全部右に照合する証言を為し居るたゞ僅かに原審に於ける中川の証言に、中川か德太郞から買つて岩次に売つたのだとの証言があるのみである。そこで果して中川か岩次に売つたのかどうか売つたとすれば代金は幾何等の点を観るに被上告人等は訴状その他では代金は五万円であると云ひ、控訴で金五万五千円と云ひ中川は代金四万五千円と証言して居る。

(二) 被上告人は甲第二号証に基いて第一審以来強硬に岩次か被上告人等から買つた主張するが、被上告人先代は乙第一号証に明の如く中川と共同で買つたと主張したり、その主張は首尾一貫せず三転四転し居る。

(三) 上告人德太郞は力雄の代理人として力雄の名義のものを中川に売つたと主張し、原審はこれを認めたのであるが力雄は德太郞に対し代理委任した事実は全然ない、又その証拠はない。それはないのが正当であれば不思議と云はなければならない。即ち力雄は幼少の頃祖父から本件不動産を貰ひ受けて居たのであるが、成年の今日まで自己の所有物であることを気付かなかつた。德太郞は事実上自己のものと信じて居たのであるから、德太郞か自ら売主となつて行動した事は解る(甲第一号証ノ一、二)が力雄は全然預り知らぬところである。被上告人等は本訴訟提起に際し公署について調査の結果大部分の本件物件が力雄の所有であることを知つて、力雄から直接登記手続を求むる為め種々牽強附会の辞を考へ力雄から買つた、否力雄の代理人德太郞から買つた力雄は德太郞に代理委任したなぞと種々言辞を弄し、何等之に照合する証拠はないのに原審は力雄は德太郞の長男だからと云ふことで大岡裁判式に德太郞の行為を有権代理とした德太郞に代理権ありと信すべき正当の理由を力雄が裏付けて居なければならない事は多言を要しない。

原審は判決理由に於て、(イ)力雄は本件土地建物の処分を承諾の上これに関する一切の交渉並に手続を父德太郞に一任した、(ロ)中間登記省略の承認もその内に含まれて居るのか居ないのか、(ハ)岩次に対し証明書さへあれば直接登記してやると德太郞は力雄をも代理して云々と特に理由付けて居る点から観ても代理権授与の有無に付き之を認める証拠は全然ない。即ち德太郞の売渡行為は第三者の物の売買以外一歩も出て居ない事が明である。

第五点 本件不動産を德太郞が売渡さんとしたのは長屋居住者八名の居住権を認め優先的に買取りせんと考へ、その代表として中川一がこれに当つたのであるが、中川の甘言に乗ぜられ数十万円の本件不動産を僅か金六万円で手放すことゝなり、中川か長屋の連中に売るので手数料が取れぬから金七万五千円の証書を作つて呉れと無心され、その際七万五千円以上に売れた場合はそれ以上の分は德太郞に渡すと云ふ約束の下に証書を交付した。

中川は右証書を取るや中川自己の居宅、裏の畑等を金拾五万七千四百円で売り払ひ本件分を岩次に金四万五千円乃至五万五千円て売却し八王子市へ出奔して仕舞つた。そして自己居宅分に付き登記を迫られたので德太郞不在中妻に無心し一万五千円払ふからとて不取敢金参千円を妻に渡し居宅分の登記を了した。

それから岩次に種々脅され欺されて甲第二号証を交付したので被上告人等は直接上告人を訴へた。

中川は第一審以来頑強に德太郞から岩次に売つたのだと主張し、甲第二号証の如く文書を偽造し又偽証をして居るのである。然るに一審敗訴となるや憶面もなく買人は自分だ、自分から岩次に売つたと前言を飜し何等恥する処なく陳述し予備的請求に添ふよう協力して居るのである。実に中川の如き奸智に長けた悪人の悪行が認容され善良にして正直者の上告人等が懸命に主張する真実の呼びが排斥せられたと云ふのが原判決であつて、正義と人道を無視した不当甚敷き裁判である。

以上第一点乃至第五点に所述する処は明に法令に違反し、審理不尽、理由齟齬の甚しき裁判であるから更らに適当の御裁判を求めます。

以上

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